2023.02.15

2022年の「日本賞」【前編】

世界各国の教育コンテンツが集うコンクール「日本賞」。今回のコラムは2022年のレポート前編で、デジタルメディア部門のファイナリストについてご紹介します。 

(1)8K文化財プロジェクト 

同部門の最優秀賞は、NHK制作の8K文化財プロジェクトが受賞しました。能面等の文化財を3Dスキャンし、そこに様々な角度から撮影した超高精細画像を合成し「8K文化財」を作成。ユーザーは全方位から自由にズームインして文化財を詳細に観察することができます。以前こちらのコラムでご紹介した「ものすごい図鑑」にもこの技術で作成された文化財編が加わり、遮光器土偶と鳥獣戯画を詳しく観察できるようになりました(2023年2月現在)。 

審査では、教育用途における幅広い可能性が高く評価されました。本作のディレクター鈴木伸治氏は、コロナ禍で博物館の展示が中止になったことがきっかけでこの取り組みが始まったことや、この取り組みを種としての教育、研究、文化の継承における活用の可能性について述べました。 

美術館や博物館で人気の展示には「展示物が見えない」「じっくり鑑賞できない」といった混雑による「鑑賞し辛さ」がつきものです。しかし、現物の他に8Kの展示を追加すれば、このような鑑賞し辛さを軽減するだけでなく、肉眼では見えないような細かい部分を捉える体験を生み、鑑賞者に新たな発見をもたらします。また、展示物には退色等の経年劣化もつきものですが、現在盛んに行われている科学分析の成果を踏まえてVR化すれば、「古ぼけていない」その作品が作られた当時の様子を再現し様々な角度からぐるりと鑑賞するような体験も可能となるでしょう。このような、作品の現物だけでは不可能な展示の発展に期待しています。 

(2)@IchBinSophieScholl (@IAmSophieScholl) 

ドイツの公共放送SWRの発案で始まったInstagramプロジェクト「@IchBinSophieScholl」は、第二次世界大戦下のナチスに抵抗したドイツ人の若き活動家、ゾフィー・ショルの最後の10か月を伝えます。Instagramを利用することでコンテンツのターゲットである若者にアプローチし、「自撮り」の動画や静止画、アニメーション等をポスト(投稿)する形で彼女の日常を綴ることで、あたかも現在の出来事のようにリアリティと親しみを持たせて伝えることに成功しました。本作を制作したVICE Media GmbH社によると、アカウントのフォロワーは93 万人を超える等、多くの反響を呼んだそうです。 

歴史上の人物を伝えるこれまでの主な方法としては、書籍、映画やテレビのドラマの他、RPG等のゲームもありましたが、ソーシャルメディアを用いた本作は斬新で意欲的です。Instagram等のSNSは、他人の生活を魅力的に見せ得るツールであるため、見る側である青少年の自尊心低下やSNS依存といった問題点がこれまでに指摘されてきていますが、このツールの強味の部分を上手く活用した事例と言えるでしょう。 

後編に続きます。 

Written by H.Owa


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