2023.03.01
前回に続き、2022年の日本賞のレポート・後編です。日本賞を10年以上チェックしてきましたが、その中でも特に心に残っている作品の一つに、幼い子ども達がインタビュー形式で様々な哲学的な問いに回答するフィンランドのテレビ番組がありました。一般的に子どもには難しいと思われる問いと子どもを対峙させる斬新な作品で、当時とても興奮し、感嘆したことを覚えています。2022年の日本賞のイベントでも、同様の感動を覚える作品が紹介されました。
ミロウ・シェヴェール氏のオランダ映画学院の卒業制作「Waarom bleef je niet voor mij? (なぜ私をおいていってしまったの?)」は、親の自死という過去を持つ子ども達にスポットを当てる短編ドキュメンタリーです。同じ過去を持つシェヴェール氏自身がインタビュアーとなり、親が自死した時にどのように感じたか、といった、経験のない人間にはおよそ尋ねることが憚られるような質問を、4人の子ども達に問いかけていきます。それらの問いかけに対し、時に淡々と、時に明快に、時に言葉を失いながらも回答していく子ども達。深い悲しみを目にたたえながらも未来を真っ直ぐに見つめるその姿に、子ども達の確かなレジリエンスと希望を感じ、深く感動しました。また、子を持つ一人の親という立場からは「自殺は、決してしてはならない」という気持ちを新たにしました。
日本賞のイベントでシェヴェール氏は、自分のような経験をしている子どもは多くはなく、そのような子ども達をメインにするドキュメンタリーを作ろうと思った、と語っています。また、インタビューに応じた子ども達は、このようなドキュメンタリーを観たかった、それぞれの経験のシェアが同様の経験をした子ども達のためになると考えた、と言ったそうです。
自死の他にも、教育の場において取り扱いが難しいテーマは沢山あります。しかし、「子どもだから」と子ども達の限界を決めつけて、子ども達を無知のままにしておいてはならないでしょう。子ども達の生涯で関わり得るものである限り、子ども達を信頼し、教育的な配慮の下でしっかりと伝えるべき情報を伝えることが、様々な事柄に適切に対処していく上で確かな支援になると考えます。多忙を極める現在の学校現場を鑑みると、家庭や社会がその役割を積極的に果たしていく必要があるのではないでしょうか。
日本賞で紹介される様々な作品を通して、制作側にも様々な学びをもたらす教育コンテンツの魅力を改めてかみしめた次第です。
【参考】Nederlandse Filmacademie 「Waarom bleef je niet voor mij? – Trailer (eindexamenfilm lichting 2020)」
Written by H.Owa