2020.10.26
理系科目は文系の人からはとにかく敬遠されがちです。数学は特にそうですが、理科も物理分野は式や計算が多く、数学と同じ様に見られています。ところが、もはや理科で学習する内容は、物理・化学・生物・地学の別を問わず、世の中で生きていく上で避けては通れない必須素養になっています。
1980年代にはSTSという概念が発達しました。これはScience, Technology and Societyの略で、日本語では「科学技術社会論」と翻訳されます。私たちの身の回りの物の中に高度な科学技術の成果が入ってくるに従って、社会全体も影響を受けるという考え方です。
例を挙げてみましょう。私達の回りにはプラスチックでできた物があふれています。特に使い捨ての物にはプラスチックの使われる割合が増えています。これらを廃棄する際は、焼却処分とすることが多いのですが、ポイ捨てされたりすると最終的には海に流れ出します。この海に流れ出してしまったプラスチックは波の影響や太陽の光が当たることによる劣化で細かく砕かれていきます。これを「マイクロ・プラスチック」と呼びます。
このマイクロ・プラスチックを魚が食べ、体の中で毒素として濃縮すると、その魚を食べた人間の健康が害されるようになります。
では、キチンと捨てて焼却すれば良いのでしょうか?その場合、古い設備ですと焼却の際に焼却炉が壊れてしまう場合があります。また壊れなくても有害なダイオキシンを大量に排出してしまう可能性もあります。これの対策をするにはお金が必要です。
それならばプラスチック自体を使うのをやめれば良いのでしょうか?すると今度は他の材料に切り替える必要があり、するとコストが高くなります。つまり商品の値段が上がってしまうのです。でも値段は抑えたいとなると、何らかのバランスを取るしかありません。
このように、現代社会は何かを変えようとすると様々なところに影響が出るようになっています。そして
「バランスを取る」
ための判断には、「プラスチックとはどのようなものなのか(有機物の化学的性質)」「なぜ魚の中で有害物質が濃縮するのか(食物連鎖)」「ダイオキシンが体に与える影響(生理反応)」「プラスチックの劣化要因(風化)」など、理科で学ぶ内容を理解することが必要です。その上で各人が判断をしなければいけません。
STSでは以前から「ヴァーチャル・ウォーター」「地球温暖化」「遺伝子組み換え作物」「再生医療」など、私たちの生活に結びつくものを数多くテーマとして取り上げています。この議論を他人任せにしないためには、理科の知識や考え方は大変重要です。
「暗記が面倒」とか「計算がイヤ」などの理由とは、まったく違った世界がそこにはあるのです。
Written by T.T.Yamada
日々の学習と社会を繋げるデジタル教材。
小さな気付きを好奇心に変え、学ぶ意欲を創造する。