2021.02.05
今回は少し変わった話をしましょう。それはファースト・コンタクト・シミュレーション(以下FCS)です。
FCSは「異文化との交流」をテーマとした講義を行うために使われている文化人類学の手法です。「どのようにすれば全く異なる文化を持つ人々と分かり合えるのか」を考えさせ、シミュレーションにより「何がコミュニケーションの妨げとなるのか」を調べるためのものです。
1979年、カリフォルニア州のカブリロ大学で文化人類学を教えていたジム・フナロ(Jim Funaro)氏は、グレゴリイ・ベイトスン博士が提唱した「どうせなら相手を異星人とすれば、容姿も文化も何もかもが異なるので、極端な事例になる」というアイデアに触発され、地球と異なる惑星で発生した知的生命体と地球人とのFCSを学生にやらせてみました。
FCSは大きく分けると4段階あります。それらは
1)「ワールド・ビルド」と呼ばれる異星人世界の構築
2)2つの種族が通信を行い、相手の情報を収集し、理解につとめる「プレ・コンタクト」
3)実際に相手と会って話をする「コンタクト」
4)問題点を議論しあう「反省会」
です。
1)は科学技術の知識とその活用が必要です。今でしたら、STEM教材としても展開できるでしょう。
2)、3)は科学技術の能力もそうですが、異文化理解の能力が必要です。そして、特に2)は人間同士のコミュニケーションというのが如何に楽かを痛感させられます。なにしろ全く言葉の通じない相手と意思疎通をしなければいけませんので、最初は素数や円周率などの数学的基盤をやりとりするところから始め、相手がそれを理解できれば四則演算、論理演算等を通してYESかNOを主張できるようにし、長さ、重さ、時間にまつわる単位系を構築し…と、辞書を一から作っていかなければいけません。
そして苦労したポイントや、上手く意図が伝えられなかった部分について4)で議論をして、問題点として知見を貯める努力をする必要があるわけです。
では教育分野でFCSは展開できるのでしょうか。アメリカでFCSを取り扱う活動をしている「CONTACT」は、科学と数学を中心に様々の分野において重要な概念と技術を扱うカリキュラムとして、 FCSを提案しています。このカリキュラムはCOTI jrと呼ばれ、8年生、つまり中学2年生のレベルで行われるように設計されています。
すでにアメリカ国内ではバージニア州とメリーランド州の二つの学校やその他の教育現場で運用されてましたし、オーストラリアの中学校でも同様の試みが行われていました。日本国内でもワールド・ビルド部分だけを琉球大学で行った例があります。
FCSは多岐にわたる知識と技能が要求されますので、STEAM教材として最適でしょう。まずは「総合的学習の時間」で「調べ学習」や「討論」など、探究型授業としてスタートできれば良いなと思っています。
Written by T.T.Yamada
そもそも、どこかにいるであろう異星人に対して地球の科学者が送ったこの図(アレシボ・メッセージ)を読み解ける地球人はどれだけいるのでしょう…?