2021.09.24
「意志不通のメカニズム」の回では、生育背景が語彙に影響を与えるという話をしました。今回は言語学の観点から、もう少し深掘りしてみましょう。
1857年にスイスで生まれたフェルディナン・ド・ソシュールという言語学者がいます。現代言語学の創始者とも言われる彼は、言葉は何故伝わるのかを研究し、それを体系立てた人物なのですが、彼の出した概念の中で非常に有用だと筆者が考えるのは、記号の意味と表象を表す言葉である「シニフィアン」と「シニフィエ」というものです。シニフィアンは「表象」を表し、シニフィエは「意味」を表します。ざっくりと言い換えるとシニフィアンは「単語」「名称」「音」、シニフィエは「概念」または「特徴」「イメージ」ということです。
例えば目の前に動く物体があるとします。その物体は「4本の足を持ち」「尻尾があり」「目が2つ」「鼻が1つ」「口が1つ」「耳は2つ」「体は毛に覆われ」「大きさは50cm程度」「ニャーという声を発する」という特徴があるとします。図にするとこのようになります。
「足」から「体毛」までの条件では幾つかの動物が頭の中に浮かぶでしょう。それらは共通の特徴(シニフィエ)を持っています。その特徴を持つ動物の名前(シニフィアン)を「哺乳類」と呼ぶこととします。
さらに2つ条件が加わると、皆さんの頭の中にはある動物のイメージが浮かんだと思います。そのイメージする動物のシニフィエには「猫」というシニフィアン(名称)が与えられているはずです。ちなみに英語ではこのシニフィエに「cat」というシニフィアンが与えられています。言語翻訳は、この同じシニフィエを持つものに与えられたシニフィアン同士を変換する作業だと言うことができます。
さて、「猫」というシニフィアンには付随するイメージがあります。「かわいい」「きまぐれ」「イタズラ好き」など。もちろんこの付随するイメージは人によって異なります。
「言葉は思ったほど正しくは伝わらない」で紹介したとおり、「雪」から受けるイメージが人によって異なるのと同じです。
「猫」そのものについては視覚情報や聴覚情報などを活用しながら、長い間かけてシニフィエを作り上げてきたはずです。しかしそこから受ける付随するイメージはその人の生育背景・文化的背景が影響してきます。実際に猫を飼ったことのある人と飼ったことのない人では、イメージが異なるはずです。そして実際の会話は、自分の体験や経験を元にして行われます。その際に、相手がその体験をしているのか、またはしていないのかを知っていればそれに応じた説明をするでしょうが、そうでなければ相手のことなどお構いなしに話してしまいます。
意志不通は「相手がその経験や体験をしているか」を無視し、付随するモノも含め、お互いのシニフィエを一致させないままコミュネーションを取ろうとする場合に起こりやすいのです。
Written by T.T.Yamada
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