2024.12.02

教育と遊び‐「猫ミーム」から見る「伝える技法」 

2024年の流行語大賞にもノミネートされている「猫ミーム」。 
12月現在、流行は下火になりましたが、国内外問わず短期間に多くの作品・動画が作られました。 

作品の構成はシンプルで、「伝えたいこと」に合わせ、「状況・感情にあった猫の素材」に「テキストを添えて表示」しているだけです。 

どの作品も使用する「猫の素材」は定型化しており、かわいい猫が、大げさな表現をする様はそれだけで面白く感じるものの、いくつか視聴すれば飽きてしまいそうな作品群です。それが爆発的に広がったのはなぜでしょうか。 

私はその背景に、「言葉に対するイメージの共通化」があると考えました。 
言葉は思ったほど正しくは伝わらない」というコラムでも説明されていますが、言葉は、本来解釈する側の性格やバックグラウンドが影響してしまい、完全には伝わりません。 

しかし、猫ミームは「状況説明」を「猫」側が担います。そして、猫が示す感情・状況は、前述の通り大げさな程にわかりやすいものです。 
つまり、猫ミームの作品中では、作り手側と視聴者側で「イメージの共通化」ができており、大雑把ではあるものの解読が非常に容易になっていると考えたのです。 

メールやチャットツールにおける「絵文字」や 「スタンプ」機能も、「状況説明」をテキスト以外に担わせた例といえるでしょう。
こうした機能が一般化したのは、テキストだけでは伝えきれない情報を、手軽に表現できる手段が求められていたからに他ありません。 

こうした、双方の「イメージの共通化」を利用した「伝える技法」は、通信が未発達な時代にも存在していました。 
例えば、ポケベル。「084=おはよう」といった語呂合わせの他、2桁の数字を母音と子音に当てはめる、表音文字としても使いました。 
古典の時代まで遡れば、高校で習う「引歌」もその一種といえるでしょう。 

花は盛りに、月はくまなきをのみ見るものかは。雨に向かひて月を恋ひ、たれこめて春の行方知らぬも、なほあはれに情け深し。1  
‐徒然草 第百三十七段冒頭

この太字部分は、古今和歌集の八十番、藤原因香の歌を踏まえており、元の歌に込められた思いや情景を、文字にしないまま下敷きにしています。 

しかし、これらは知識・教養が共通していることが前提の、いわば「内輪」の技法です。 
一方「猫ミーム」は「かわいい猫」という理解しやすいテーマを定型化したことで、年齢・性別・国籍・文化を越えてイメージを共通化できたのです。 

ここまでの通り、猫ミームは一種の優れた「伝える技法」です。しかし、「定型」だけでコミュニケーションを完結させるのは困難で、やはりテキスト・音声のみでも情報を正確に捉える力が求められます。 
ナスピアでは、時代とともに変化する「伝える技法」を取り入れつつ、「聴く力」「読む力」の育成にも、引き続き注力していきます。 

Written by Y.Nakai

  1. 書籍等によって、原文の漢字等に違いがある場合があります。 ↩︎

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